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乳がん

乳がんは遺伝子治療の対象となるのか、やさしく解説します。

乳がん患者は遺伝子治療を受けられるのか

乳がんの患者さんも遺伝子治療を受けることができます。

遺伝子治療はがんに対して遺伝子レベルで作用する治療法で、人間が本来持っている本質的な力による治療です。手術療法や放射線療法、薬物療法といった標準治療と併用することも可能で、むしろ併用することで相乗効果を期待できます。

正常な細胞にダメージを与えるような強い副作用がないため、術前・術後はもちろん、再発した場合や末期がんの状態でも遺伝子治療を受けることが可能です。治療の特性上、適応範囲は非常に広く、もちろん乳がんも例外ではありません。

ただし、ある条件に当てはまる場合は、遺伝子治療を受けるのが難しいことも。具体的な治療対象除外基準については、以下のリストをご参照ください。

治療対象の除外基準

遺伝子治療が受けられる病院はどこ?

当サイトを運営している「遺伝子治療研究会」では、全国100カ所にのぼるクリニックと連携しています。

その中でも乳がんに対する遺伝子治療を受けられるクリニックを複数紹介していますので、治療を検討している方は是非とも参考にしてください。

遺伝子治療を提供しているクリニックはこちら

そもそも乳がんとは

乳房は出産時に母乳を分泌する大切な役割を持っています。母乳をつくるのは乳腺で、その乳腺にできる悪性腫瘍が乳がんです。

乳腺は母乳を運ぶ乳管と母乳をつくる小葉に分かれていますが、がん細胞が乳管や小葉の上皮細胞内にとどまっている状態を非浸潤がん、乳管や小葉の周囲に広がっている状態を浸潤がんといいます。

乳がんは年齢的に30代から発症率が上がり始め、50代前後から60代にかけて多くなります。一方で20代と比較的若い世代に発症する若年性乳がんもみられます。ごくまれに男性にも発症するケースがあり、男性は進行が早いといわれています。

乳がんの原因

乳がんが発症する原因ははっきりとわかっていませんが、主に卵巣から分泌される女性ホルモン「エストロゲン」が関係していると考えられています。このエストロゲンが分泌されている期間が長い、つまり月経のある期間が長いほど発症リスクが高いとされます。初経が早く閉経が遅い人や出産・授乳経験のない人などがそれにあたります。

長期間にわたって経口避妊薬を使用している人やホルモン補充療法を受けている人も乳がんのリスクが高いといわれていますが、それらには月経痛や更年期障害の症状を緩和する作用もあるので主治医とよく相談する必要があるでしょう。

乳がんの症状

乳がんは乳房のしこりやひきつり、痛みなどの自覚症状で見つかることが多く、早期の場合は検診のマンモグラフィで発見されることがほとんどです。早期の乳がんは自覚症状に乏しく、検診による発見率は年々上昇しています。

乳がんのステージ(病期)分類

他のがんと同様に乳がんにも進行の程度による分類があり、それをステージ(病期)といいます。ステージは0期からⅣ期までの5段階で、がんのサイズ(しこりの大きさ)や広がり方、リンパ節や他臓器への転移の有無といった要素で決まります。

ステージはがんの状態や治療の見込みを知るうえで非常に重要な指標であり、これによって治療方針や予後の見通しが立ってきます。

病理分類

0期

しこりのない非浸潤がん(乳がんが発生した乳管内にとどまっている状態)、またはパジェット病で、きわめて早期のがんです。

Ⅰ期

しこりの大きさが2cm以下で、わきの下のリンパ節や他の臓器に転移していない状態です。

ⅡA期

以下のうち、いずれかの条件を満たす状態が該当します。

ⅡB期

以下のうち、いずれかの条件を満たす状態が該当します。

ⅢA期

以下のうち、いずれかの条件を満たす状態が該当します。

ⅢB期

以下のうち、いずれかの条件を満たす状態が該当。しこりのない炎症性乳がんもこのステージから含まれます。

ⅢC期

以下のうち、いずれかの条件を満たす状態が該当します。

Ⅳ期

骨や肺、肝臓、脳などの離れた臓器にがんが遠隔転移している状態です。

乳がんの治療方法

乳がんの治療では手術療法、放射線療法、薬物療法の三大治療が標準治療とされています。患者さんのステージや全身状態を考慮して治療が選択されることになりますが、場合によっては複数の治療を組み合わせることもあります。

手術療法

手術療法を選択する場合は、がんをすべて取り除くことを目指します。その場合、手術は乳房を温存する方法と乳房をすべて切除する方法の二択になります。

手術に際してリンパ節への転移が明らかな場合は、併せてわきの下のリンパ節郭清を行なうこともあります。

乳房部分切除術

乳房部分切除術は、がん病変を含む乳房の一部のみを切除する方法です。がんから1~2cm離れた部分から切除しますが、美容的にも問題のない範囲で乳房を温存することが目的です。通常は手術後に放射線治療を行ない、残った乳房での再発を予防します。

この手術の受けるための明確な基準はなく、がんのサイズや位置、乳房の大きさ、患者さんの希望によって決定しますが、何より主治医とよく相談することが重要です。

がんが大きい場合は、手術前に薬物療法を行なってがんを小さくしてから手術を行なうことがあります。

手術中には切り取った組織の切り口を調べ、がんが確実に切除できているか確認します。手術を行ない、予想以上にがんが広がっている場合は、乳房をすべて切除する方法に切り替えるか、改めて再手術を行なうことがあります。

ちなみに、手術後に放射線治療を行なった乳房部分切除術と、乳房をすべて切除する乳房全切除術では、再発率に差がないとされています。

乳房全切除術

その名のとおり、乳房全切除術は乳房をすべて切り取る方法です。乳がんが広範囲にわたる場合や、複数の病変が離れた部位に発生している多発性がんの場合はこの方法を選択します。

腋窩リンパ節郭清

手術前の触診や画像検査、手術中の生検などで腋窩リンパ節(わきの下のリンパ節)に転移が認められた場合は、腋窩リンパ節郭清手術を行ないます。

切除するリンパ節の数や範囲は、転移の程度によって異なります。

手術によって起こりうるリスク・合併症

腕や肩のトラブル

手術を受けた側の腕が動かしにくい、または痛みやだるさ、しびれ、わきの皮膚につっぱり感があるなどの症状が出ることがあります。リンパ節や脂肪組織、皮膚や筋肉など手術で切除した範囲が広いほど、これらの症状が出やすくなります。

主治医に相談して、腕や肩の運動を徐々に行なっていくといいでしょう。

リンパ浮腫

手術と同時にリンパ節郭清を行なった場合や、リンパ節に放射線治療を行なった場合に、腕や手にむくみが出る場合があります。リンパ浮腫は一度起きると改善しにくいため予防が重要です。主治医の指示に従って、日常生活上の工夫を取り入れましょう。

放射線療法

放射線療法は、X線などを体外から照射してがん細胞を死滅させる治療です。乳がんの治療においては、手術後の再発を防ぐために放射線療法を行なうことが多いようです。

また、再発した場合にがんの進行を抑えたり、転移にともなう痛みを抑えたりするために放射線療法を行なうこともあります。

放射線治療によって起こりうるリスク・合併症

放射線治療の代表的な副作用は、照射部位の皮膚トラブルです。日焼けのように赤くなってかゆみや痛みをともない、水ぶくれのようになることもありますが、通常は治療が終われば徐々に回復します。

また、放射線を照射することで乳房が縮んだり、母乳が出なくなったりしますが、反対側の乳房から授乳することは可能です。

薬物療法

薬物療法は手術後の再発防止や手術前のがんの縮小などを目的に行なわれます。また、手術が困難な進行がんや再発乳がんに対する延命や、生活の質の向上を目的とする場合もあります。

薬の種類や組み合わせは患者さんのステージや状態、がんの種類によっても大きく変わり、ホルモン剤や抗がん剤、分子標的薬などから選択されます。

ホルモン療法薬

ホルモンの働きによって増殖するタイプのがんを攻撃するため、ホルモンの分泌や作用を阻害する薬です。ホルモン受容体が陽性の乳がんに効果が見込めます。

閉経前と閉経後では女性ホルモンが生成される経路が異なるため、それぞれに合った薬を使うことになります。

分子標的薬

がんの増殖に影響するタンパク質やがんを攻撃する免疫細胞に関わるタンパク質、がんに栄養を届ける血管に影響するタンパク質など、特定の分子を標的にしてがんを攻撃する薬です。

一部の乳がんでは、HER2タンパクという物質ががん細胞の増殖に影響しています。病理検査でHER2が陽性であれば、それに合った分子標的薬を使用します。

細胞障害性抗がん剤

がん細胞の増殖のメカニズムに着目し、そのシステムの一部を阻害することでがん細胞を攻撃する薬です。ただし、正常な細胞にも影響を与えてしまいます。

薬物療法によって起こりうるリスク・合併症

使用する薬の種類によって、起こる副作用もさまざまです。

ホルモン療法薬の場合はホットフラッシュ(急激なほてり)や不正出血などの生殖器症状、骨密度低下などの症状が出現する場合があります。

分子標的薬は種類によって違いますが、悪寒や下痢、発疹などの副作用がみられます。

細胞障害性抗がん剤は前述のとおり正常細胞にもダメージを与えてしまうため、口内炎や吐き気、脱毛、下痢などといった自覚症状をともなうもののほか、検査に現れる血液細胞減少や肝機能、腎機能の低下などがみられます。

乳がんに対する遺伝子治療

基本的にどのような状態であっても遺伝子治療を行なうことができますが、もし上記の標準治療に適応がない場合でも乳がんに対して遺伝子治療を行なうことは可能です。遺伝子治療は人間の身体に本来備わっている細胞を体内に投与するため、従来の抗がん剤のように正常な細胞にダメージを与えることはありません。

遺伝子検査で異常があっても画像検査上は異常がない「前がん状態」でも遺伝子治療を行なうことが可能で、がんの発症を抑制することが期待できます。

遺伝子治療によって起こりうるリスク・合併症

遺伝子治療は人間に本来備わっている細胞を投与するので、大きな副作用を起こすことは考えにくいとされています。投与後に発熱や発疹がみられるケースもありますが、通常はすぐに回復します。

乳がん患者の生存率

5年生存率

対象数 生存状況
把握割合
実測
生存率
相対
生存率
乳がん 56,778 97.8 87.9 92.2
Ⅰ期 24,755 97.9 95.2 99.8
Ⅱ期 99.8 97.7 91.4 95.7
Ⅲ期 7,038 97.6 76.4 80.6
Ⅳ期 3,014 98.0 33.8 35.4

※参照元:国立がん研究センター がん登録・統計:がん診療連携拠点病院等院内がん登録生存率集計「2010-2011年5年生存率の主な結果」

実測生存率とは、すべての死亡を計算に含めた生存率です。死因に関わらない生存率なので、がん以外の死因による死亡も含まれています。

性別や年齢はがん以外の死因に大きく影響しますが、そういった要因が異なる集団で生存率を比較する場合は、そこを考慮して補正する必要があります。それが相対生存率です。性別や年齢など同じ特性の集団の期待生存率で実測生存率を割れば、がん以外の死因による影響を補正できます。相対生存率はがん以外の死因を補正する方法として、がんの生存率の算出に広く用いられています。

乳がん治療の予後・経過観察

手術を受けた後は、反対側の乳房も併せて、年1回程度のペースで視触診やマンモグラフィーなどの検査を受ける必要があります。検査で異常がみられたり、何らかの自覚症状があったりする場合はさらに検査を追加します。

初期治療を受けてから3年間は再発の可能性が高いため、3~6カ月ごとの経過観察が必要です。4~5年目は半年から1年ごと、それ以降は年1回の定期通院が勧められます。

いずれにしても、規則正しい生活を送ることで体力の維持や回復を図りましょう。禁煙はもちろん、節度を守った飲酒、栄養バランスの取れた食事、適度な運動などを日常生活に取り入れていくことが大切です。

食生活・運動

バランスの取れた食事とお伝えしましたが、食品によって再発の危険性を高まることはありません。

ただし、肥満は再発のリスクを高めると考えられています。その意味でも健康的な食生活と適度な運動を心がけましょう。

性生活・妊娠

まず、薬物治療中は妊娠しないように気をつけてください。治療が終われば、薬の成分が体内から排出されるまでの一定期間を空ければ妊娠可能です。妊娠・出産を希望する患者さんは、前もって主治医に相談しておきましょう。

性生活が女性ホルモンの分泌やがんの進行に影響することはありません。もちろんパートナーに悪影響を与えることもないので安心してください。

ただ、ホルモン治療中は皮膚の感覚が変化したり、性交痛がみられたりする場合もあります。パートナーとコミュニケーションを取り、理解を深めるようにしたいものです。

乳がんの転移・再発

乳がんが発症した頃から体内に存在していたがん細胞が、初期治療を生き延びて後から活性化する状態が再発です。乳がんの場合は、10年以上経過してから再発する人もいるので定期的な観察が大切です。この場合、手術した乳房やその周辺に再び腫瘍ができることを局所再発、離れた臓器や骨に腫瘍ができることを遠隔転移といいます。

遠隔転移の場合はすでに全身にがん細胞が広がってしまっており、手術を行なうことは困難です。この場合は抗がん剤などによる全身療法を実施し、極力がんの進行を抑えつつ症状を緩和させながら、可能な限りがんと共存していく方法を選択することになります。

乳がんに関する研究

遺伝性乳がん・卵巣がんのリスクとなるBRCA2遺伝子変異の新たな解析法を開発

国立がん研究センター研究所細胞情報学分野の研究グループは、同センター中央病院乳腺・腫瘍内科、東京大学大学院医学系研究科、理化学研究所生命科学研究センターと共同で、遺伝性乳がん・卵巣がんのリスクとされるがん抑制遺伝子「BRCA2」の変異に対する新たな解析法を開発しました。

注目のポイント

がん抑制遺伝子BRCA2の変異には、これまで抗がん剤の効果や発がんリスクとの関連が明らかでなかったものが186種類もありました。しかし、本研究によって遺伝子変異の機能解析がなされ、新たに37種類の病的な変異が発見されたのです。

この新たな手法によって、遺伝子検査で発見された変異に対する迅速な病的意義(がんとの関連)を判定するシステムの構築に至りました。

研究に至るまでの流れ

日本人女性は9%が乳がんを、1%が卵巣がんを生涯のうちに発症するとされており、乳がんはもっとも発症頻度の高いがんです。

一般的にがんは遺伝する病気ではありませんが、乳がん・卵巣がんの約10%は遺伝的に発症します。とくにがん抑制遺伝子「BRCA1」「BRCA2」のいずれかに生まれつきの変異がある場合は、親から子へ約50%の確率で遺伝します。

がん患者を対象に行なわれてきたゲノム研究や遺伝子検査では、BRCA2遺伝子に多くの変異が見つかっています。これが発がんに大きく影響していることは広く知られており、リスク低減手術(乳房や卵巣の予防切除)や遺伝子検査による予防と早期発見、そしてすでに発症してしまったがんには効果が認められているPARP阻害剤による治療が行われてきました。

一方、BRCA2遺伝子には多数の変異が報告されてきましたが、そのほとんどは病的意義が明らかではない変異でした。変異がどのような影響をもたらすのか、そしてがんとの関連が不明なため、検査の結果が治療につながりません。とはいえ病的な変異であることも否定できず、こうした変異の存在は遺伝子検査の限界として大きな問題でした。そこで、変異した遺伝子の機能に対する革新的な解析手法の開発が望まれていたのです。

研究の成果

本研究のグループは、がん遺伝子変異に対する機能解析法「MANO法」を開発し、多くの遺伝子変異と分子標的治療薬への反応性を明らかにしてきました。その実績と経験を活かし、がん抑制遺伝子BRCA2の機能解析を可能とする「MANO-B法」を確立したのです。

この手法を用いて244種類のBRCA2変異の機能解析を行なったところ、広く使用されている病的意義の標準的な評価基準と矛盾がないことが分かりました。さらに186種類の変異の機能解析を行なった結果、37種類ががん抑制機能を失った病的な変異だと判明したのです。

多くの病的な変異はDNAと結合するタンパク質の一部に存在していましたが、そこ以外にも病的な変異は存在し、そのタンパク質が必ずしも病的とは限らないので個々の変異に対して機能解析を行なう必要が出てきました。

研究の成果の臨床応用

さらにこのMANO-B法を臨床に応用するため、遺伝子検査で新たに発見された変異の病的意義を患者さんや医療者に迅速に報告するシステムも提唱されました。

具体的には機能を評価したい遺伝子変異4種類と、既に機能が判明している遺伝子変異8種類を使用してMANO-B法を実施し、得られた結果を過去の実験結果と組み合わせることで遺伝子変異の機能を判定するものです。

このシステムは5週間で結果が出る簡便なテストでありながら、多数の遺伝子変異を用いる大規模な実験と同様の機能解析が可能なことがわかっています。

本研究がもたらすもの

本研究ではこれまで病的意義が不明だった186種類のBRCA2遺伝子変異の機能解析を行ない、うち37種類の病的変異と126種類の正常機能を保った変異を新たに同定できました。これは、遺伝子検査の有用性を大きく向上させることにつながります。引き続きMANO-B法を多くの遺伝子変異の患者さんに対して実施していけば、適切な治療方針が定まらないまま不安を抱える遺伝子変異の患者さんを減らすことができるでしょう。

一方、この研究では23種類の中間的な機能を有する遺伝子変異も認められており、これらが発がんに影響しているのかどうかは明確になりませんでした。こうした中間的な機能の遺伝子変異の患者さんを多く集め、発がんの確率を解析するような疫学研究が期待されます。

参考元:国立がん研究センター「遺伝性乳がん・卵巣がんのリスクとなるBRCA2遺伝子バリアントの新規機能解析法を開発」
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2020/0522/index.html

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